分数で割ること

よくある数学の話題として、

「分数で割るときって、なんでひっくり返して掛ければいいのかわからんよね」

というものがある。
この疑問は、小学校で初めて分数の割り算を習ったときに誰しもが一度は抱いたことがあるのではないかと思う。

今回は、その初めて習った彼ら(或いは過去の私たち)にうまく説明することを試みる。
#方程式を知っている中学生以上では、この疑問はほとんど意味を持たない。(両辺にその分数を掛けて、もう一度逆数をかければよい)

この間も友人たちとその話題になったが、そのときにはぼくが話すことはなかったので、ぼくの考えをここにまとめておく。

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そもそも、割り算とは何かということについて、以下のように理解する(と分数の割り算がわかりやすい)。
すなわち、「割り算とは、単位当たりの量を求めること」である。
単位当たりの、というのは、ひとつあたりの、という意味だ。

たとえば、リンゴ8つを二人で等分したとき、それぞれのリンゴの個数を求めるという問題を考える。
おそらく誰しもが頭の中で、閃光のように

8 / 2 = 4

を計算して、 4 個という答えを求めたことだと思う。
この式に説明を付け加えて、この式がいったい何をしているのかをわかりやすいようにしてみる。

8 (個) / 2 (人) = 4 (個/人)

この式はそれぞれの数字に単位を付け加えただけのものだ。
右辺の「個/人」というのが、一人当たりの(つまり単位当たりの)リンゴの個数(量)となっている。
こういう書き方は車の時速を表すときに用いられる km/h (一時間当たり何キロ走るか)と同じである。(100 km を 2 時間で走ったら 100 km / 2 h = 50 km/h になる)

このように、割り算とは単位当たりの量を求める操作であることがわかってもらえたと思う。

そこでいよいよ分数の割り算を計算したい。
例題として、以下のような問題を考える。

おじいさんは 2/3 時間に 1/3 m^2 だけ畑を耕すことができる。
では、おじいさんは 1 時間にどれだけの畑を耕すことができるか。

#ただし、おじいさんには一切の休憩が必要ないものとする

頭の中で、

1/3 / 2/3 = 1/3 * 3/2 = 1/2

と計算して、答えである 1/2 m^2 を求められたと思う。
しかし、このとき同時に、「あれ、そういや、なんでひっくり返して掛けるんやろ」という疑問が
僅かながら、それでも確かに脳裏をかすめているはずだ。

この式の中で、我々の疑問は、一つ目のイコールで結ばれた関係がなぜ正しいのか、ということである。

以下の図を見てもらいたい。

mixiの僕の日記からの転載です

この図は左から見る。
まず一番左の柱は、全体で一時間を表していて今回の場合はそのうちの 2/3 に、つまり 1/3 時間の箱ふたつに影がかかっている。
これはおじいさんが 1/3 m^2 耕すのに掛かる時間だ。後で答えをわかりやすくするために 1/3 を a としている。

この問題で求めたいのは、一時間当たりに耕やす面積である。
が、そのためにまず 1/3 時間当たり、つまり箱ひとつぶん当たりに耕すことの出来る面積を求めよう。
これは影のかかった 2/3 時間で耕す面積の 1/2 倍だから、 a/2 となる。
わかりやすくするために、またこれを b と置いている。

この b を耕すのにかかる時間は、箱の大きさをみればわかる通り一時間の三分の一である。
求めるのは一時間当たりの面積なのでこの三倍、つまり 3b = 3a/2 となるわけだ。
このとき、右辺からわかるように答えは a の 3/2  倍であり、これは 2/3 をひっくり返したものになっている。

これで、単位当たりの量を求める場合において、分数の割り算とはひっくり返したものを掛けることと等しいということがわかってもらえた もらえると嬉しい。

念のため一般化して考えておく。
x m^2 耕すのに y/z 時間掛かるときに、一時間当たりの耕地面積を求める。( y, z は互いに素)

まず一時間を z 個に分けた箱を考えて、 y 個だけ塗りつぶす。
するとひとつの箱( 1/y 時間)では x/y m^2 耕すことができることがわかる。
一時間はこの箱 z 個だから、一時間では z * x/y = x * z/y m^2 となる。


このような計算の流れを経ているとき、分数の割り算ではひっくり返したもの(逆数)を掛けることで答えを得ることができるのである。

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さて、単位当たりの量を求める計算ではこのとおり逆数を掛けることで解決することを述べた(つもり)だ。
しかし、割り算とはこれで全てではない。

たとえば次のような問題が考えられる。
水 3L を 3/4 L ずつ配るとき、何人に配ることができるか。

これは単位当たりの量を求めているのではない。
なぜなら、

3 [L] / (3/4) [L] = 4 [個]

というように、分子分母どちらの量の単位も L になっているために右辺に「〜当たり」という言葉が出てこないからだ。

しかしながら、このときも少し面倒だが先ほどと同様に考えることができる。

まず、全体を 1 L で考える。
1 L を 3/4 L ずつに分けるといくつになるか、ということだがこれは結局
1 L にするために必要な 3/4 L の個数ということになる。

まず先ほどと同様に 1 を 4 つに区切ってできた 4 つの箱のうち 3 つが影になったものを描く。
この影を 1 L にするためには、 3 で割って 4 掛ける必要があることがすぐにわかる。
つまり、 4/3 個必要だということである。
今全体は 3 L だったから答えはこの 3 倍の 4 となる。

このように少し頭の中で手間がかかるけれど、「全体を分母の数だけ箱に分けて、分子の数だけ箱を埋める。その後(分子の数で割って)一番小さい箱の分を求めて、(分母の数を掛けて) 全体( 1 ) にする」という作業が同じであることが理解できる。

つまり、分子分母の単位が同じで「単位当たりの」が出てこなくても同じ「」の中身の作業をしているのであって、結局、「分数の割り算とは逆数を掛けることと同じ」という結論になる。

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小学生の僕もこのふたつに分けて考えていたし、分数の割り算がなぜ逆数で掛けることと等しくなるのかについてもぼくなりの答えを持っていた。