人生の変わる日

今日は本当いろいろあったなぁ。
全てが去っていくのですね。
そしてまた始まるのですか。


待って欲しいと、そう、よく思うようになったのはいつからだったかな。
大学入試の時にそう思ったのが最初だったと思う。
浪人したかった。のかな。
一年の猶予、というか、なんだったのだろう。あの気持ち。
怠けたかった、のかな。
いや、そんなんじゃない。
本当はわかってる。そんなんじゃない。


勉強はしたいことだけしかしなかったし、赤本なんて読む気すら起きなかった。
僕は数学と物理で遊んでいた。
試験問題を解くとか、大学への数学を読むとかではなくて、
自分で定理を作って証明しようとしたりしてた。
物理もそう。日常の現象を物理で説明しようとしていた。定性的にも定量的にも。
思い返すと、その扱いのいかに適当だったことか。
まったく、恥ずかしい。
それでもあの日々は楽しかった。
線分を集めて面積にする積分や中間値の定理、
ドア止めの物理や摩擦ゼロの世界についての妄想。
そんなことを、ずっと考えていた。
場もよかった。
試験の迫りくるぴりぴりした雰囲気が好きだった。
何か込み上げるアツイものがそこにはあった。
僕は少し、そこから浮いていたかも知れないけれど。
多分、僕は、人のぴりぴりした感情に僕の感情を移入していただけだったのだと思う。
それは僕のものではなかった。
僕個人は、これで落ちるのは当然だ、と思っていた。
そして、恥ずかしながら、
受かれば。
それは何かの証明だと思っていた。
自分を信じることができるような気がした。
そう信じていた。
なのに、受かっても、後悔だけが残った。
もっと勉強しておくべきだったと思った。
そして今度は、その不足を何かの理由にしようとしていた。


院試のときだ。
留年したかった。
一年掛けて、足りていない勉強を補いたかった。
そんな言い訳を呟きながら、僕はじっと時を流れるのを見ていた。
今度は勉強もあまりしていなかったと思う。
だから、受かるはずがないとすら、思っていた。
今度は証明だという意識もなかった。・・いや、少しはあったのだけれど。
その少しと、試験中のあの、熱が出たような火照りと高揚感。
それがどの程度影響したか知らないが、
驚いたことに、受かっていた。
だけどやはり、それは証明足り得なかった。
後悔した。
そして、受かったときに感じるべき充足感や達成感を僕は得ずに、
そして、実力を得たという自信すら僕は得られずに、
僕は院生になった。


今ならわかる。
ずっと自信が欲しかった。
僕が手に入れることができなかった達成感
僕がずっと前に手放した努力という言葉
失くしてしまってから気づいた。
自信を得るために捨てたものが、
自信を得るための唯一の方法だったこと。


僕はどこへ行くのだろう。
誰かが横にいたことを思い出す。
後ろからやってきて、前に行ってしまった人を思う。


前からすれ違う人の顔を見る。
その笑顔が僕の心に淀みを作りながら、流れていく。
その渦は、角運動量を外側に運びながら、僕に何かを、たぶん傷を
与えていく。


失ったものを取り戻すことは難しい。
もしかしたら不可能かもしれない。
もう二度と触れることのできないものなのかもしれない。
僕がソレと認識できるのかどうかもわからない。
それでも。


かつて横にあったなら
かつて後ろにいたのなら
ずっと遠く、誰かに伝わっているのなら。